30歳目前に安定した大手商社OLから転身
東京・代々木上原の閑静な住宅街。アトリエのドアを開け、花のような笑顔で出迎えてくれたのは、野﨑由理香さん。人気の雑誌『花時間』などでも活躍するフローラルデザイナーです。
野﨑さんが、花の仕事を本格的に始めたのは、30歳を目前に控えた頃のこと。大手総合商社に入社して2年目から趣味でフラワーアレンジメントを習い始め、5年ほどが経過。会社を辞めてフラワーアレンジを教えることを仕事にしようかと悩んでいました。
「当時は、商社での女性の仕事といえば男性の補佐的な役割が多く、そんな状況になんとなく物足りなさを感じていました。会社での仕事よりフラワーアレンジメントのほうが自分にあっているのではないかと思い、花の仕事に専念すべく入社8年目に思いきって会社を辞めたのです」
最高に幸せな瞬間は喜ぶ笑顔を見られたとき
「自宅でアレンジを教えたり、オーダーメイドのフラワーギフトを作ったりするのを仕事にしたい。花のことを知るには花店で働くのが一番の近道」と考え、履歴書を手に都内の有名花店を片っ端から訪ね歩いたといいます。
「運よく、そのひとつに拾っていただき、2年ほど修行しました。花店の仕事というのは本当に力仕事中心で、朝から晩まで必死で働きました。その後、ホテルの花店でも宴会や婚礼装花に5年間携わりました」
イギリスにも数ヶ月間、花の勉強に行き、ヨーロッパの国々を回って帰国。そこで得た経験や培った人脈は、その後の仕事に大きく役立っているそうです。
現在は、自身のアトリエを拠点に、レッスンやギフト、活け込み、ウェディングなど、様々な仕事を手掛けている野﨑さん。
「OL時代は、大きな会社にいたこともあって、自分が行った仕事が誰かを喜ばせているという実感はなかったのですが、今の仕事では、ギフトや結婚式などでお客様に喜んでいただけることが本当にうれしいです。お客様の笑顔を見られる瞬間が、この仕事の最大の魅力ではないでしょうか」
- Photo by Y.Nozaki
苦労だと思わないのは喜びがそれ以上だから
花の仕事は、見かけほど優雅ではありません。朝は早く、冬でも寒い場所で作業し、持ち歩く荷物も多くて体力勝負の仕事です。
「おそらく、労働に対する報酬もそんなに多くはないと思います。それでも私は、あまり苦労だと思ってはいません」と野﨑さん。
それは、大変なことがたくさんあっても、補って余りあるほど喜びが大きいからなのでしょう。
「私の花を気に入って習いに来てくださる方やアレンジなどを注文してくださる方は、私と感性の合う方が多いので、お話していてとても楽しいのです。ご要望をいただいたり、こちらからも提案したりしながら、いいものを作っていく達成感がありますね」
そして、野﨑さんが花に触れながらいつも驚かされるのは、花の持つ不思議な力だといいます。
「花はすぐに何かの役に立つとか、食べておいしくて栄養があるとかいうものではありません。でも、見た瞬間に美しいと感じて心が癒やされたり、元気や勇気が湧いてきたりしますよね。枯れてしまうと寂しいし、形としては残らないけれど、いつまでもその美しさは印象に残ります。このように花には心に働きかける不思議な力があるといつも思うのです」
送り主の温かい気持ちをアレンジや花束に込めて
だからこそ、お祝いやお悔やみ、お見舞いなど、ギフトの依頼を受けたときはとくに、花の持つ不思議な力も借りて、送り主の気持ちをアレンジや花束という形にしてしっかりと丁寧に伝えることを心がけているという野﨑さん。
「以前、お見舞いの花を病院に届けたところ、後日その方から連絡があり”美しいお花のおかげで贈ってくれた方の気持ちを感じて少し元気が出ました。お見舞いにお花を贈る意味がわかったような気がします”とおっしゃったのです。この言葉を聞いて、私自身も改めて、花の仕事をする意味を確認できた気がします」
- 1. シンプルな形の同じコップを2つ用意して、それぞれに切り分けたアジサイをこんもりを入れます。
- 2. 主役になるコサージュ咲きのトルコギキョウを1輪ずつ、アジサイの中心に挿します。
- 3. 細くてしなやかなグリーン2本ずつをハート型に指し、1本で2つのアレンジをつなじます。
- 4. 完成したところ。花が痛みやすい夏でも、少ない花材でおしゃれに。
※虹色通信 2014年夏 号より
フローラルデザイナー
野﨑 由理香
大学卒業後、大手商社勤務を経て、花の世界へ。花店勤務後、ヨーロッパ各地でブライダルフラワーやテーブルアレンジメント、室内装飾などを学ぶ。帰国後、都内ホテルで宴会・婚礼装花に携わる。現在は、代々木上原にアトリエを構え、フラワーレッスン、フラワーギフト、ウエディングフラワーなどを手がけ、雑誌『花時間』に作品を掲載するなど多方面で活躍中。