インタビュー

紙とはさみで創る歓びのかたち

切り紙作家矢口加奈子

1枚の紙を折って、切って、開くと、偶然に現れる美しいかたち…。切り紙作家の矢口加奈子さんは、そんな切り紙のモチーフを自らの手でバッグやスカーフなどのプロダクトに落とし込むスタイルを通して、“歓びのかたち”の世界を大きく広げています。

想像を越える切り紙のかたちに夢中になって

 東京・国立のギャラリーを訪れると、画家であるご主人との二人展を開催中の切り紙作家、矢口加奈子さんが笑顔で迎えてくれました。

 会場には、切り紙のアート作品をはじめ、バッグやストール、ポーチなども展示されています。これらのプロダクトも、矢口さんが自ら切り紙を制作し、ステンシルの要領で切り紙の文様を布に染め、ひとつずつ手作業で縫い上げています。量産できないため、基本的に展示会でのみ販売しているバッグは、とくに人気作品。作り続けるうちに少しずつ変化していく切り紙バッグの新作を楽しみに、展示会に足を運ぶファンも多いといいます。

 矢口さんが切り紙を始めたのは、空間デザインを学んでいた大学生の頃。たまたま手元にあった折り紙を折り、はさみで切って、開いてみると、想像もしていない抽象的なかたちができたことに、夢中になりました。

「でも、切り紙のアート作品を作ることには初めからあまり興味がなくて、切り紙の文様をモチーフにして、バッグやアクセサリーなど、身近で使えるものを作っていきたいと考えていました」と矢口さん。

  • (左・右上) 切り紙のポーチは人気の定番作品。
  • (右下) 切り紙をハンドペイントしたストール。

 その当時、初めて開いた個展のタイトルが”歓 よろこびのかたち”。天から降ってきたようなこの言葉が、今も創作のベースになっているといいます。

「切り紙で思いがけないかたちが生まれたときや、それを生かしてものづくりをしているときの私自身のよろこび……。それがさらに、バッグやアクセサリーを日常的に使ってくださる方のよろこびにつながっていくと思うとうれしいですね」

 折り紙を折って、子どもの頃から愛用しているというはさみで細かく切り込みを入れ、そっと開くと、万華鏡の中で出会ったような、どこかエキゾチックで美しいかたちが現れます。

「数えきれないほど切ってきたので、開く前からどんなかたちが現れるのか、だいたいイメージできます。それでも、ちょっとした切り方の違いで、思わぬ文様が現れたりもするのです。想像を越えていくところが面白いですね」

旅先で見かけた風景がヒントになることも

 意図しても同じ文様は二度と再現できないし、ときには自分でも驚くような作品ができあがることが、切り紙の醍醐味だと話す矢口さん。散歩の途中で目に留まったものや、旅先で見かけた風景が、切り紙のヒントになることもあるといいます。

「とはいっても、見たものを直接、切り紙のモチーフにするというわけではなく、見たものの断片が自分の中に落とし込まれていって、それらのエッセンスがミックスされて、自然に手が動くという感じでしょうか」

 異国への旅もまた、驚きや感動が無意識に作品に影響を与えるようです。

  • (左) 10泊12日の日程で、ロシア、キルギス、ウズベキスタンを訪問。切り紙を通して、文化交流し、日本を紹介しました。現地でのワークショップも大盛況!
  • (右) 著作も多数。写真は『紙とはさみでつくる切り紙手帖』(池田書店) 1,200円+税

「以前、ロシア、キルギス、ウズベキスタンと10泊12日で旅したのですが、そのときも想像以上の新鮮な出会いがありました。見慣れない看板やその国の独特の色づかい、伝統的な文様など、どれも忘れられません。今も私の作品の一部になって、息づいていると思います」

  • 1. 市販の折り紙を用意。正方形の紙を対角線で三角に折ります。なるべくきちんと角を合わせながら、さらに二等分になるように二度折り、最後に辺を合わせてもう一度折ります。
  • 2. 先端部分をはさみで真横に切り落とし、最後の折り目を開きます。このとき、真横の線に対してゆるやかに交わる曲線を描くように再度切り落とすと形がなめらかになります。
  • 3. はさみを細かく自由に動かしながら、折り紙の端を切り出していきます。細かいところは、はさみではなく、紙を動かしていくと線がなめらかに仕上がります。
  • 4. 折り紙を開くと意外な模様が!色違いの2枚を重ねて花びん敷きにしました。

※虹色通信 2017年春 号より

切り紙作家

矢口加奈子

1976年、千葉県生まれ。女子美術大学芸術学部デザイン科卒。大学在学中より制作活動をスタートし、「切り紙」という表現方法を軸にさまざまなかたちで作品を発表している。多分野の企業への作品提供やグッズデザイン、装丁なども手掛ける。切り紙による著作も多数出版。実用書をはじめ、作品集や絵本も制作。初の著作本は英訳版も出版され、活動の場を国内外に広めている。

[wl]http://www.yorokobinokatachi.com