酵母

人類の歴史は「腐敗」との闘いだ

人類の歴史は「腐敗」との闘いだ

昔の人にとって、食べ物は非常に貴重なものだったはずです。潤沢でない食べ物が腐ってダメになってしまえば飢えてしまうし、もしうっかり腐ったものを食べてしまうと、お腹をこわしたり病気になったり、最悪死に至ることもあります。

ものを腐らせないということは生き延びるために非常に重要でした。そして、先人たちはその「腐敗」を「発酵」に変えて生き延びてきたとも言えるのです。

ものを腐らせないために、冷蔵技術も防腐剤もない人類はどんな知恵を育んできたのか。ざっくり分けると、

  1. 発酵菌の拮抗作用
  2. 塩、砂糖漬け
  3. PH値(酸性、アルカリ性)のコントロール
  4. 高濃度のアルコール

の4つ。これらすべてに発酵技術が深くかかわっています。それでは1個ずつ見ていきましょう。

発酵菌の拮抗作用

発酵をすることにより、腐敗を防ぐことができます。ビンテージワインなどは50年以上前のものでも腐らずに保存されています。その理由は「菌の拮抗作用」です。これは酵母が一定数繁殖すると、酵母が作る栄養成分や酵素のちからによって、腐敗をもたらす微生物を締め出してしまうことにより、腐敗を防げるということです。例えていうなら「女性専用車両」のイメージです。車両にぎっしり女の人が乗っていると、後から男性は乗ることができないんです。

塩・砂糖漬け

保存食の基本は、塩漬けです。塩そのものには、防腐効果はありません。でも、高い濃度の塩(塩分濃度を10%くらいまで高めると)が食品に含まれていると、浸透圧の効果で細胞内の水分が細胞外に排出されます。きゅうりに塩をまぶすとしんなりすることやナメクジに塩をかけると溶ける原理と一緒です。ナメクジも微生物も細胞の基本構造は一緒なので、雑菌を防ぐのに塩が有効です。食品内の水分が少なくなるということは「食品を乾燥させる」のとメカニズムは一緒になります。中には「塩に強い発酵菌」というものが存在していて、味噌などは塩を使用していますが、発酵菌が活動しているので、大豆から味噌へと発酵が進むのです。

ちなみに、塩だけではなく砂糖でも同じことが言えます。例えば、ようかんは、全体の重量の40~70%の砂糖が含まれています。つまり、1本のうち半分は砂糖ということ。そのために日持ちするので、昔からお土産の定番として喜ばれてきたのでしょう。また、ジャムが保存食品なのもやはり浸透圧の変化により雑菌の侵入を防ぐことができるからと言えます。

PH値のコントロール

腐敗の原因となる微生物にとって居心地の良い環境は、中性(PH値6.0~8.0くらい)です。多くの微生物はこの中性環境で活動するようにできています。強いアルカリ性や酸性に環境を傾けると、雑菌の侵入を防ぐことができます。酢漬け(ピクルス)にすると強酸性、燻製にすると強アルカリ性になるので、腐敗を防ぐことができます。

ちなみに、酸っぱいもので保存性を高めると聞けば、昔からおにぎりの具として梅干しが重宝されてきたのも、防腐効果を期待する知恵から来たものだといえるのです。

高濃度のアルコール

微生物の多くは高濃度のアルコール、大体アルコール度数20%以上の環境では死んでしまいます。細菌は家庭用の除菌スプレーや除菌アルコールなどが販売されていますが、これと同じ原理です。