インタビュー

書道の魅力を広く世界に発信していきたい

書家・デザイン書道家粟津紅花

古典作品から、おしゃれな店舗ロゴやポスターの制作、国内外でのパフォーマンスと、幼い頃から学んだ「書」の魅力を幅広く、世の中に発信し続けている粟津紅花さん。書道の変わる良さと変わらない良さ、その両方を伝えていくことを目指しています。

言葉にならない衝撃を受けた人生を変える作品との出会い

 墨の香りが漂う静かな空間。粟津さんが筆を動かすと、その筆先から次々と美しい文字が生み出されていきます。まさに、さらさら、と形容するのがぴったり。一文字も書き損じることなく、長く白い和紙は優美な文字で埋め尽くされていきました。

 粟津さんが書道家を志したきっかけは、小学校5年生のとき、書道展で、ある作品を目にしたことでした。

「おおきな真っ白い紙に力強く書かれた2つの文字に魅せられて、その場から足が動かなくなるほどの衝撃を受けたのです。何と書いてあるのか、子供の私には読めなかったのですが、文字の意味がわからなくても、墨の黒以外の色を使っていなくても、これほど人を感動させるものを作れる人に自分のなりたいと、強く思いました」

 その日から、書家になることが粟津さんの夢となりました。中学校からは書家のご夫婦に学び、学生時代、銀行員になってからと、書道塾で助手を8年ほど務めた粟津さん。結婚を機に退職して、住み慣れた愛知県から横浜へ。お子さんが生まれ、一時期は専業主婦をしていたといいます。

子供に書道を教えることがきっかけで開いた教室

「娘が3歳になった頃、お習字を習わせたいと思いました。私自身も3歳から習い始めたので。先生を探すうちに、私が習わせたい書は、私自身が教えるのが一番だと気づいたのです。そこで、教室を開き、娘と近所のお子さんたちに教え始めました」

 そのうち、お子さんのお母さんたちやさらに年配の方、精神などに障害を抱えている方の自立就労支援のお手伝いなど、生徒さんはどんどん広がり、今では8ヶ所で教えるほどになりました。

素晴らしい日本の伝統文化をたくさんの人に親しんでほしい

 教室に通えない人には通信講座で指導し、ペン字やデザイン書道、篆刻など同じことを学びたい人が集まれば出張のワンデーレッスンも行っている粟津さん。

「日本人だけでなく、外国の方にも書道の楽しみを知っていただけるよう積極的にワンデーレッスンをしています。私自身も先生にしていただいたように、紅花塾では大学生になったらアシスタントを務め、教える勉強ができるようにもしています。将来は書道の道に進みたいと目指してくれる生徒が何人もいるんですよ」

 書道という素晴らしい日本の伝統文化を、たくさんの人にもっと親しんでほしいという一心から、新しい試みにも次々とチャレンジしています。

「フランスでパフォーマンスをしていると、文字の意味はわからなくても”ブラボー!”って喜んでくださるのを見ると、これが私のやりたかったことだなと思いますね。小学5年生の私が、あの書を見て感じた思いが今に結びついたのだと思うと、とても感慨深いです」

変わる良さと、変わらない良さ。その両方を伝えていくために

 油絵などの絵画は、キャンパスをさまざまな色で埋め尽くしますが、書は漆黒の墨一色。決して二度書きはしません。1本の線が持つ緊張感と墨の色だけで、にじみやかすれ、文字の大小など、白く薄い和紙に厚みやニュアンスをつけることができるのも書道の魅力だと粟津さんはいいます。

「書道には、変わる良さと、かwらない良さ、その両方があると思うんです。古典書道のように変わらない伝統を大切にしながら、デザイン書道やパフォーマンス書道のように時代に合わせて進化していく。私自身もそんな書家でありたいと思います」

※虹色通信 2016年夏 号より

書家・デザイン書道家

粟津紅花

愛知県生まれ。3歳から書を学ぶ。銀行勤務を経て、1993年より紅花書道塾を主宰。門下生の指導や古典書道の作品制作の傍ら、店舗ロゴや商品ロゴなどのデザイン書道も手がける。また、国内外のイベントでのパフォーマンス書道、書籍出版、セミナー講師など、幅広く活躍中。

[wl]http://www.kouka-eri.com/