インタビュー

1本の日傘に想いを込めて

日傘作家、Coci la elle主宰ひがしちか

梅雨空の日も、太陽がまぶしい炎天下の日も、お気に入りの傘が1本あれば、外出するのが楽しくなります。ひがしさんが想いを込めて作った傘を開くと、その美しい色彩に、女性はみんな笑顔になります。

デザイナーの道を諦め自分にしかできないことを

 東京は清澄白河の駅からほど近くの場所にある「Coci la elle(コシラエル)」。ものを作るという意味の日本語「こしらえる」が由来のブランド名には、手仕事への敬意や、手作りされた“もの”のぬくもりが込められています。

 ここは、日傘作家として、世界でたったひつの日傘を作り続けているひがしちかさんのアトリエ兼ショップ。ブランドを立ち上げてから7年。今年4月には代官山に2号店もオープンして、順風満帆に見えるひがしさんですが、ここまで来るには紆余曲折があったといいます。

 服飾の専門学校を卒業後、憧れていたデザイナーのアシスタントとして働いていたひがしさんは、ここで最初の大きな挫折を味わうことになります。

「服をデザインする人は、そういう星の元に生まれついているというか、なにか特別なものを持っていて、自分はそうでないということを思い知ったのです。何をすればいいのかわからなくなり、子どもの頃から大好きだった絵を描こうということだけを決めて、退社しました」

 アルバイトの傍ら、描いた絵を自分で絵本に製本して出版社に持ち込むものの、なかなかうまくいかずにいた頃、妊娠が発覚。長女を出産しました。

「シングルマザーだったので、生活のために事務職についたのですが、これがまったく向いていなくて、すごく苦しくなってしまいました。私じゃなくてもできる仕事をしているのがもどかしい。でも、何をやりたいのかわからない。毎日悩んで“では、どんな生活がしたいの?”と自問自答してみたところ、出てきた答えが“子どもが帰っってきたら「お帰り」と言ってあげられる生活”でした。何度も履歴書を書いての就職活動はもうしたくない。だったら、自営すればいいんだ!そうしようって(笑)。何をするかも決めていないのに、独立することだけを決めたんです」

 それからは、自分が好きで得意なことを、絵を描いたり、ミシンでモノを作ったりと、片っ端からいろいろやってみたひがしさん。以前、白い日傘に自分で絵を書いたものをたまたま見つけたとき“これだ!”とひらめいたといいます。

仕事に望んでいたものが「日傘づくり」で実現

 日傘を作ると決めてから、まったくの独学で一から傘を作り始めたひがしさん。部品を売ってくれるところを探しているうちに、素晴らしい腕を持った職人さんたちと出会い、いろいろと教わりながら、傘づくりをひとつずつ学んでいきました。

「長い間、愛着を持って使っていただけるものを丁寧に作りたいという想いや、好きな絵が存分に描けること、場所を取らずに1人で作業できることなど、私が潜在的に望んでいたことのピースが、日傘を作るということに全部ピタッと収まった感じです」

 今は、京都の傘職人の方たちに注文して日傘の本体を作ってもらい、そこにひがしさんが布用の絵の具で絵を描いて乾燥させてから、それぞれの傘に合ったハンドルやベルト、留め具などのをつけて完成させています。

「日傘は年間。300本くらい作っています。そのほか、私が原画を描いてプリントしたものを使ったプロダクトの雨傘やスカーフ、ハンカチなどもあります。ご購入いただいた傘は修理も対応していて、昔作った愛着ある日傘に再開することも多いんです。みなさん、大事に使ってくださっているのがわかって、とてもうれしいですね」

 アパレル業界に勤めていた頃は、毎年、シーズンごとに新しい服をどんどん作り、売れ残ったら価格を下げ、それでも残ったら廃棄してしまう、そんな流通サイクルにも疑問を持っていたというひがしさん。ビニールの使い捨て傘が数百円で買える時代だからこそ、それとは正反対のベクトルで作られた傘を宝物のようにして愛用したい人も多いはず。1本の日傘には、ひがしさんのものづくりへの愛情が詰まっています。

日傘のお手入れ方法
  • 1. 傘を閉じたら、ハンドルを持って左右に振る。ホコリを落とし、三角の部分が内側の入るのを防ぐ。
  • 2. 片手で傘の露先を全部握り込んで押さえたまま、反対の手で三角の部分を揃えていく。
  • 3. 最後に、ベルトの布をぐるりと回して留める。こうすれば、傘の上部に触れずにすむので汚れにくい。

※虹色通信 2017年夏 号より

日傘作家、Coci la elle主宰

ひがしちか

1981年、長崎県生まれ。2010年、一点物の日傘屋としてCoci la elle(コシラエル)を立ち上げる。日傘に絵を描き、傘を作るのはもちろん、雨傘やスカーフなどの小物のデザインやブランドのディレクション、近年は本の装画や執筆なども行う。2012年より絵と布にまつわるプロジェクト「meme(ミーム)」のメンバーとしても活動中。

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